メメント。人は想い出で出来ている。
いつもは地面から聞こえる地下鉄の音が、頭の上から聞こえる。
昨晩、地下鉄の終電車に落とした忘れ物を探して、私は海抜800メートル下のどん底へと案内された。
「決して目を落として歩かないように」
地下を先導するベテランガイドはそう釘をさしたけれど、踏み外した一歩のつま先を追ってつい、
私が目を落としてしまえば、たちまちの暗闇!
そのドサクサに、日比谷線と銀座線が交差した地の底は、遠くメンフィスはギザのピラミッド、
その地下迷宮へと場所を変えた。
そこで出逢ったのは、玄室に眠る女王。そしてミイラ取りがミイラのノミ取り、地下で落とし物を探すうち、
迷宮に捕らえられ出られなくなった一人の男だった。
男は、私を「墓荒らし」だと言った。女王の墓前を荒らす墓荒らしだ、と。
このどん底に私が探しにきたもの。
それは財宝でもなく、遺品でもない。ただ一つ。終電車に落とした、ただ一つの忘れ物。でもそれが何だったのか…。
いつもは地面から聞こえる地下鉄の音が、頭の上から聞こえる。
私の名前はデルフィ・ワーシカ。
ど・ろ・ぼ・う、と指さされた背中を押され、地下への階段をまた一歩下った。
