NOTE

生活と創作のノート

update 2018.03.27

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ここで逢いしょう

BLIZZARD BEAT.s NOTE


#136 素敵じゃないか 2018.03.27 TUR


■実家に帰ることになったから、と、友人からメールが届いたのは明け方だった。

■会える?と書いてあったので、いつ?と問うこともなく、それが『今日』なのだと分かった。全ての予定をキャンセルした。渋谷に15時。100メール離れていても、彼だと分かった。とりあえずという感じでブラリと入った駅前のスターバックス。いつも混雑していて、絶対に座れないはずのその席がまるまる一組、我々のためにサーブされたかのようにポッカリと空いていた。それから7時間、一度も立ち上がることなく、二人で機関銃のように喋った。この時間があれば、もう、一年間黙っていたっていい。言葉は、一瞬も留まることなく二人の口から溢れ続けた。

■店を出て、彼が不意に、ジャケットのそでを捲って二の腕を見せた。ニヤニヤと笑って、「こんなになっちまったよー」と言った。 骨の形が見えるのではないかと思うほど、白く、細い腕だった。そして、遠くに見えるタワーレコードの灯りを見ながら、あそこの7階にあった洋書屋は、まだあるんだろうかね?と言った。 言われてハッとした。
そうなのだ。
かつてそこは我々の場所だった。そこでよく待ち合わせた。約束したこともあったし、しなかったこともある。約束がなかった日でも、夕方にそこへ行けば、5回に1回くらいは彼に会うことができた。その頃リリースされた曽我部恵一のソロ・シングル『ギター』の歌詞に、【渋谷の洋書屋】が出てきて、絶対にソコだ、と興奮して喋ったことを思い出す。そんなあれこれをすっかり、忘れていた。そこにまだ、あの店はあるのだろうか?シネセゾンも、HMVも、ない渋谷に?

■2000年代のはじめ。初めて携帯電話を持った頃、彼と夜中に長電話をした。さんざん喋って、「それじゃ」と言いかけたところで、プツリとキレた。1分後にメールが届いた。一行、「それじゃ、また」。と書かれていた。いいそびれた別れの挨拶をメールで言い直す、その律義さに笑った。私たちは、人類史上においてもっとも『電話』で人と会話した世代になるのだろう。あんなに『電話』で人と喋る日々はもう、二度とやって来ない。電磁波の影響で、50年後に脳がぶっ壊れてるかもしれない。ザマァないのである。SNSで世界は接近した。電話はその役目を終えた。何ひとつ、憂えることなど、ない。

■一駅歩いて、代々木駅前で別れた。別れ際に、今日のこと、書いてもいい?と聞くと、何でも書くがいいさ、と笑った。だから、書いた。

■また逢おう。雑踏で逢おう。あの店で逢おう。約束して逢おう。偶然に逢おう。都市で逢おう。知らない場所で逢おう。二人きりで逢おう。大勢で逢おう。映画館で逢おう。暗がりで逢おう。午前中に逢おう。いいことがあったら逢おう。不機嫌に逢おう。空腹で逢おう。満腹で逢おう。汗をかきながら逢おう。震えて逢おう。逢いたくない日に逢おう。晴れた日に逢おう。雨が降ったら逢おう。苛立って逢おう。笑いながら逢おう。惨めな気分で逢おう。予感があったら逢おう。嫌われたら逢おう。騒々しく逢おう。ふさぎ込んだら逢おう。100メートル上空で逢おう。地下で逢おう。すれ違ったら逢おう。目を瞑って逢おう。歩きながら逢おう。立ち止まって逢おう。音楽を聴きながら逢おう。ノイズの中で逢おう。24時間逢おう。時間を気にして逢おう。磨いた靴で逢おう。スニーカーで逢おう。絵を眺めながら逢おう。本を読んだら逢おう。電話して逢おう。気まぐれに逢おう。準備して逢おう。優しい気分で逢おう。殴りたくなったら逢おう。許されるのなら逢おう。しゃがみ込んで逢おう。背筋を伸ばして逢おう。照れながら逢おう。開き直るために逢おう。上着を替えたら逢おう。靴下に穴があいたら逢おう。ニュースを伝えるために逢おう。悪口を聞いたら逢おう。歌うように逢おう。親切をしたら逢おう。歯が抜けたら逢おう。話題がなくても逢おう。いつだって、ここで逢おう。

■なんとなく帰りそびれてしまい今、午前4時前。新宿三丁目の珈琲貴族で書いている。始発が動くまで、あと1時間くらい。店内には薄く、『Wouldn't It Be Nice』が流れている。恰好つけた文章で申し訳ない。格好いい気分になってしまったのだった。だが消さない。推敲もしない。この気分に付箋を貼って、いま、このノートに残して置く。

小野寺邦彦




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