カノン、頼むから静かにしてくれ

WORKS

上演作品
▼諧謔能楽集Ⅰ
カノン、頼むから静かにしてくれ
夜啼鳥篇/土喰蛇篇

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左手に聞いてみろ

三尊をお待ち申し上げます中秋に、数日も降り続いた野暮な雨雲が退いて、見通しの効く満月の夜だった。

最初に音が来て、すぐ後に目の前が真っ暗になった。
その暗闇の中で は、紅い火花が幾つも散って、パチパチと爆ぜ、燃え広がった。
私の視界はその炎の明かりと熱とで、真っ暗に明るかった。恐ろしくは無かった。

私は何となく、戦争が始まったのではないか、と思っていた。
私がそれまでに経験したことのないほど遠くからやって来た音。
だからきっと外国から来たのだろうと思ったのだ。
外国からミサイルが飛んできて、今、私は炎に包まれている。
 やがて私もこの火に焼かれて、たちまち灰になってしまうのだろう。
それもいいかもしれない。

私に未だ残されている、あと何十年という、無限にも等しい、気の遠くなるような時間の中で、私の中の肉という肉が全て腐敗し、 嫌な匂いを出すようになっても生き続けなければいけないのだったら、いっそ今、全てを焼かれてしまっても構わない。
そう思った。

恐ろしくは無かった。
少なくともそのときまでは。



【夜啼鳥編】




















繭子 「左手に聞いてみろ」それがあの人の口癖だった。歩きなれぬ都会の雑踏に身を攫われ、攫われしてゆくうちに、今、足元の階段を、自分が上がっているのか下がっているのか、それすら分からず、思わずよろめいた瞬間、左手が、吸い付くように柱の一本に張り付いて、気付けばそこは、湿って薄暗い地下だった。

と、鳥男現れる。

鳥男 見せて頂きましたよ、左手の妙技。
繭子 おじさん、誰です。
鳥男 鳥男。トリオトコ、と書いて、トリオです。
繭子 地下にも、鳥がいるんだ。鳴く鳥?鳴かない鳥?
鳥男 夜、鳴く鳥です。
繭子 アタシは、繭子。
鳥男 見せて頂きました。多くの亡者が駆け上がり、また駆け下ったこの螺旋階段。一度は足  を踏み外し、大気圏外に半ば以上、その身を放り投げていながら、すんでに左手をピタリと  支柱に貼りつけて、身を持ち直した技こそはお見事。
繭子 螺旋階段?どうりで同じところをグルグル回っていた気がしたんだ。
鳥男 同じ場所のようで、ちょっとずつ違う。螺旋に渦を巻く、乱気流のイタズラに焦って見  せても、後の祭り。
繭子 あの、ここは秋葉原ですよね?JR秋葉原駅。
鳥男 然り。ダイダロスの迷宮であり、アルハンブラのグレイシャーガーデンであり、同時に千代田区秋葉原駅です、ハイ。
繭子 駅から出ようとして、いくつもの階段を上がったり下がったりするうちに迷っちゃったみたい。で。
鳥男 それが秋葉原の迷宮の恐ろしいところです。道案内の矢印を鵜呑みに飲み込み、電気街  口への階段を降りているつもりで、いつの間にか総武線ホームの階段を登っている。気付け  ばアレヨと座標を見失い、永久に出られぬアリ地獄。哀れ秋葉原の虜となって無限に彷徨う  のです、紙袋を持って。

背後を、秋葉原の亡者たちが紙袋を持って通り過ぎる。

繭子 ゾッとする話だわ!

と、そこへ、右手を柱につけてイスメネ現れる。

イスメネ そこに誰かいる?
繭子 え?
イスメネ いるのね。見えないけど、感じる。この右手をピタリとつけた、螺旋の支柱を振動させて、エーテルを揺らす、息遣いが。
繭子 目が見えないの?
イスメネ 見えない何も。その事実を知らないあなたは、私の探すアンティゴネではないのね。
繭子 アンティゴネ?
イスメネ 姉です。消息不明の息遣いを追って迷い込んだ秋葉原の迷宮。やっとの思いで、こ  のカタコンベにたどり着いた、私はイスメネ。

イスメネと繭子、一本の柱の左右にそれぞれの手をあてて、対称的に対峙する。

鳥男 誰もがそうです。この秋葉原の地下、湿りきった冥府魔道の入り口を訪ねてくる者の目  当ては一つ。「他では見つからない、とっておき」。違いますかナ。
イスメネ繭子 ピンポン、大当たり。
鳥男 けれど一見限りのお見限り、初めてのお客さんには、このヌメッた廊下をカッポカッポ  と闊歩する、通行手形をまずは取得して頂きます。
イスメネ それってどんなセキュリティー・パス?
鳥男 秋葉原名物、誰が呼んだが、「ラセンのライセンス」!
繭子 ラセンのライセンス?

暗闇からラッセンが現れる。

ラッセン お嬢ちゃん。アキバ、初めて?道案内しよっか?あ、イージーイージー。安心して   ダイジョブ。僕、有名人よ。
イスメネ えっ?有名?アルゴスの7英雄よりも有名?
鳥男 (耳打ち)紅白出場歌手のオルフェウスより有名です。
繭子 (イスメネを諫めて)ちょっと。
ラッセン 近くば寄って、目にも見よ。世界に名だたる、ラッセンの絵画!

ラッセン、手に持った絵画を広げる。イルカの描かれた、いわゆるあの、ラッセンの絵画。

繭子 あ、あ、このイルカ、見たことあるぅ。
ラッセン (きっぱりと)世界一、有名な絵です。
イスメネ 有名?それってアンティオキアのアレクサンドロスよりも有名?
鳥男 (耳打ち)ライトノベル作家のヘロドトスよりも有名です。
繭子 その、偉大なる印税作家よりも有名なイルカのドローイングこそが、秋葉原の地下をば自在に闊歩するのに必要なライセンスなのね。
鳥男 いやしくも秋葉原にあって、ラッセンの絵画一枚持たぬ者こそとんだモグリと言えます。
イスメネ (財布取り出し)いかほどのお値打ちかしら。
ラッセン ホンの100万ユーロ。
イスメネ それってつまり、何ドラクマ?
ラッセン たかが3億4千75万ドラクマ。
イスメネ (卒倒する)3億!
繭子 日本円に直すと?
鳥男 ざっくり100と25万。
繭子(卒倒しかけて)仮想通過で払える?
ラッセン 実在の胸肉1ポンドだって受付やしません。世界に冠たるジャパン・マネー・オンリー。
イスメネ繭子 でもないもの、そんなお金。

と、そこはいつの間にか、空間が区切られた個室に変わっている。クモキリとキマイラ現れる。鳥男とラッセンは闇に消える。

クモキリ 撫でおろしましょう、レディー。赤いエシャロットと白いその胸。世馴れをしないあなたにも優しい、ズバリ分割、という支払い方法がありますからネ。
繭子 お金を割るの?
キマイラ 今ある価値を未来の時間で割ります。
イスメネ ローンね。ギリシア人はローンが得意。
クモキリ 未来への、投資です。秋葉原の地下をわが物顔でツイストして回るためには今、その覚悟を背負う勇気こそが試される。
繭子 肩こりそうなハナシじゃん。
キマイラ では肩の凝らぬマジックを披露しましょう。ここに取りい出したる、一本150円  の缶コーヒー。ブレイクタイムに一日一本。その小粋な喉を潤すために費やされる、たかが   150円を、けれど一年、365日我慢してご覧なさい。懐に幾らの蓄えが残りますかナ。
クモキリ 5万4千750円。
イスメネ繭子 ほぉー。
キマイラ ではそれが、22年と10か月と3日なら。
クモキリ ちょっきり、100と25万。
イスメネ繭子 パチパチパチパチ。
キマイラ ネ。缶コーヒーを一日一本、喉に注ぐ未来を22年と10か月と3日分、質草に差し出せば、その瑞々しい果実が今、早送りで手に入る。
繭子 支払いと対価の順序を入れ替えるのね。
イスメネ 缶コーヒーって飲んだことないんだけど、それくらいなら節約できる気がしてきた。
繭子 アタシも。頑張って、22年と10か月と3日、飲んでもいない8千本もの缶コーヒー  を飲み干す未来を今、いちどきに吐き出すわ。
クモキリ んじゃ、契約書にオシルシを。

繭子、イスメネ、それぞれ左手と右手を、契約書にバンと押す。

クモキリキマイラ 毎度ありい。

ラッセンの絵画を渡して、クモキリとキマイラ、闇に消える。

イスメネ繭子 ついに手にいれた、秋葉原の地下を自由に這いずる、そのパスポートを!

と、そこへ鳥男現れる。

鳥男 クワァアアッ(鳴く)。
繭子 わッ、なななんだ、急に鳴いたりしてサ。
イスメネ 何の御用でしょう。これから地下を這いずり回るので忙しいんですケド。
鳥男 イヤ、なに。取り立てて用というほどもナイ、取り立てです。
イスメネ・繭子 えっ、取り立て?
鳥男(契約書をあらため)イスメネさん。繭子さん。ローンの支払いが焦げついております。
繭子 だってたった今、輝く未来の時間を先払いしたばかりだろ。
鳥男 (ラッセンの絵画取り上げ)その未来の価値が暴落したんだ!払えねえ分は体で払って貰おう!クワーッ!
イスメネ繭子 ええっ!

(肺魚)












鳥男 「おいで、ブス!」

道行く群衆が一斉に振り返る。

鳥男 おいで、おいで。ブスだけおいで。顔面ブスに、性格ブス。ナイーブなブスに、エン  ジョイ・ブス。インディペンデント・ブスにエターナル・ブス。ビューティフル・ブスにス  ティーブ・ジョブス。オトコもオンナもニュージェンダーも。誰かに言われたからじゃない。  鏡がひび割れたからでもない。ただ己が己を「ブス」だと指さした、そのトキこそ、盲目の  恋のスタートライン、運命のブス、その資格をゲットした瞬間。成婚率99・9とんで9  パーセント。あてどないエニシを張り巡らせ、運命と運命とをマッチングする、ブスによる、  ブスのための、ブス専門・結婚相談所。「おいで、ブス」に登録は、今スグ!
イカルガ あの!ボク、登録希望です。
鳥男 こりゃあなかなかの、ブスッタレ。
イカルガ まあね。だが、いつまでもブスッたれてても仕方ナシ。男・三十、意を決して婚活、始めました。
鳥男 ご職業は。
イカルガ 医者です。ちょっとした、専門領域担当。
鳥男 そんじゃ引く手あまただ。
イカルガ そのあまた、引く手を切り刻んできた因果か、女子ウケサッパリ。
鳥男 サッパリと竹を割ったような、非モテですな。
イカルガ 最近も、初めからいなかった気もする助手が辞めちゃったとこサ。
鳥男 ご安心アレ。当「おいでブス」にはね、必然性のまるでない、運命と運命を強引にマッ  チングするエキスパートがおりますので。
イカルガ 運命の相手をデタラメにあてがってみても、逃げられてしまえば元も子もない。
鳥男 私、副業で取り立てていうほどもない、取り立て、やってますから。逃げる債務者を追っかけるのは得意技です、クワッ。
イカルガ 充実したアフターサービスだ。
鳥男 それじゃ、マッチング担当にお引渡し。クワーッ!

キマイラ現れる。

キマイラ 運命のマッチング担当、キマイラです。
イカルガ キマイラ。
キマイラ 見ず知らずの他人同士、まったくのアカの他人。いびつで、バラバラで、決して縫い合わされない、縫い合わされてはならないハズの、他人と他人の運命を縫い合わせませす、そりゃもう、乱暴に。
イカルガ できれば丁寧に縫い合わせて頂きたい。
キマイラ はいっ!マッチングが完了しました、アナタの運命のお相手と!
イカルガ 早い!素晴らしく早い!で、どこの誰なんです?私の運命の妃は?
キマイラ 言ってもイイの?ホント?
イカルガ 言え!ハッ!まさか、ここで課金が発生するんじゃあるまいな!
キマイラ その人は、既に死の国におります。
イカルガ …は?
キマイラ 死んでいるのです。あなたの唯一絶対、運命の相手は。迎えにいくしかありません。死の国への階段、黄泉平坂を下って。
イカルガ 死者とマッチングだとぉ…。そそそそ、それが「おいでブス」のやり方かぁ!…クレームだ!

クモキリ、現れる。

クモキリ クレーム処理担当の、クモキリです。
イカルガ 生涯を添い遂げる運命の伴侶に、よもや死者をあてがわれようとは、思ってもみなかった!
クモキリ お怒りもっとも。しごく、もっとも。しかしヒトタビ縫い留められた約束のステッチに、クーリング・オフは効かないのです。
イカルガ イビツに乱暴に結びつけておいて、よくも言えたな。
クモキリ 運命とはそういったものです。
イカルガ 消費者庁に訴えてやる!並大抵の謝罪が通用すると思うな。ケケケ、クレームの地獄を見せてやるぜ。
クモキリ ぞくぅ。その不毛なるクレーム地獄に身を落とすより、運命の妃の待つ地獄へと歩を進めるプランを提案いたします。
イカルガ 行けるわけねえだろ、死者の国なんぞ!
クモキリ ガイドをお付けしましょう。死に水取った水先案内人、死の国への、ガイドを!

ピンポンとチャイムの音がして、イスメネ登場。

イスメネ ドーモ。「秋葉原エロス&タナトス」からやって参りました、イスメネです。では、お邪魔さま。

イスメネ、地を這うように空間へ侵入すると、イカルガを押し倒して、馬乗り。

イカルガ ちょちょちょちょ、ちょっと!この人、目が見えないみたいだけど?
イスメネ (撫でまわし)…違う。このヒトもやっぱり。アタシの探すアンティゴネではない。
クモキリ イスメネさん、「しっぽりデユォニソス・コース」時間無制限で、お願いします!
イスメネ ええーっ。またぁ?また、タナトス?エロスなし?どうなってるんだ、まったく、近頃のエロスは!スケベを忘れたら、人間終わりだぞ!…前金!
クモキリ ハイ、血判。領収書、頂きます。
イスメネ 疲れるんだよなあー、シロウトと一緒だとさ。死んだ者の声を聴く、そんだけじゃ、ダメすか?
イカルガ 運命でマッチングされたのは、声だけじゃない。身も、心も、ボクの腕でお眠りベイビー、とこの胸に掻き抱いてこそ、登録料のモトが取れるってもんです。
イスメネ ハイハイ。んじゃまあ、参りましょ。黄泉平坂下って、運命のお妃が眠る、死の国のベッドまで、二人三脚で。
クモキリ お達者で。…ヤレヤレ。
(斑鳩)










鳥男 しとしと、ぴっちゃん。月の光も届かぬ、ドブの暗渠を、誰にも知られず流れ流れて…荒野だ。終わることのない荒野を、俺は彷徨っている。俺は、俺は…アレぇ。俺は、誰だっったっけ。
繭子 汚ねえ鳥が、ドブ河を流れてきた。
鳥男 あっ、俺の家臣のグロスターじゃんか。
繭子 はあ?誰が!アタシは、繭子。繭に包まる子と書いて、繭子。
鳥男 うるせえ!この荒野を往く者は、例外なくすべて俺の家臣なのだ。
繭子 すっかりボケが進行しちまったんですね。螺旋のホットラインで、家族に迎えに来て貰わなきゃ。
鳥男 待てえ!そのホットラインを繋げる前に、先立つモノを恵んで下さい。
繭子 人の肩にイルカを押し付けて得た栄華も今は昔、ついに無一文に成り果てたんだね。

と、キキーッ!と車のブレーキの音。避ける繭子。ふっとぶ鳥男。ポリュケイネスとペルセポネが現れる。

ペルセポネ …なんだ、大物を轢き潰したと思ったら、真っ黒な鳥か。
ポリュケイネス かわいそーに。先立つモノを恵んでやろう。ハイ、心付け。

チャリンと小銭を巻いて、二人、去る

鳥男 ようし、先立つ財産が出来た!これより財産分与を行う!親族会議だぁ!
繭子 親族会議?

イスメネとキマイラ、現れる。

イスメネ ピンポン。どーも。毎度毎度、ワンパターンな登場でゴメンね。イスメネです。
キマイラ 花も実もある、アフター5のお呼び立ては、いい加減でご遠慮願いたいんですけどぉ。
イスメネ アンティゴネお姉さまったら、いつだって不機嫌のブスったれ。言われちゃいますよ、「おいで、ブス」って。
キマイラ キッ!だからお姉さまでもないし、ブスじゃないし、あんたなんか、知らない!
鳥男 ようし、揃ったなあ、家臣であり、家族でもある。我が三人の娘たち。
繭子 三人?アタシもカウントされてんのかよ。
鳥男 さあ、称えろ!月明かりだってソッポを向けないよう、声高らかに俺の名を!最も大きな声で、俺の名を世界に轟かせた者にこそ、俺のもつ財産、そのすべてを与えること、公明正大に誓おう!…税理士!

税理士のクモキリ、現れる。

クモキリ 税理担当の、クモキリです。公正証書に記しましてございます、只今のお言葉。
繭子 アホらしい。何が全財産だ。道端に投げつけられたチャリ銭じゃねえか!税理士雇ってる場合か、文無しの分際で。
鳥男 思慮浅き娘よ。財産とは、チャリチャリと輝く金子(きんす)ばかりとは限らない。
イスメネ 出るぞ、出るぞ。演劇史に残る名言の予感。
繭子 金だけが財産じゃないだって?ペッ!よくも説いたな。身体一つで、身に余る他人の負債までをも肩代わりして稼ぎだしたブルーカラーに、青臭いタワゴトを。
キマイラ 尾羽うち枯れた闇の鳥が、スカンピンの羽を拡げて提供する、先立つ心がけ以外の財産、それは?
鳥男 苦楽を分け合った、家族さ!

鳥男、イスメネ、キマイラ、繭子の肩をヒシと抱く。と、キキーっと車のブレーキの音。ポリュケイネスが登場。

ポリュケイネス 乗った、そのサジェスチョン!
人々 えっ?
ポリュケイネス ボケ散らかした荒野の王よ。功名心に駆られたハゲワシよ。約束したな!その名を、この地上に余すことなく轟かせれば、その財産すべてを分与する、と。
クモキリ 公明正大に、間違いございまセン。
ポリュケイネス では参加しようっと、その財産分与にポリュケイネスも。このチャレンジ、成った暁には総ざらいに頂くぜ、スカンピン。なけなしの財産のすべて、苦楽を共にした、家族を。
繭子イスメネキマイラ えええええっ!
鳥男 いいだろう!
イスメネ ちょっとお、財産分与は家族間での、骨肉の争いじゃないの?
鳥男 構わん。この名を轟かせるために尽力した者こそ、血を超えた息子であり、娘であり、わが家族だ!
クモキリ ルール的には、問題ナッシング。
ポリュケイネス いやあ、地獄に王と王妃の二人きりじゃ、いい加減さみしくて。家族、欲しかったんだよね、お手軽に。
キマイラ 進退窮まった在庫一掃セールで、気軽に家族をピックアップするんじゃない。
ポリュケイネス そんで?なんて言うんだ、地上に轟かせる、鳥の名は?
鳥男 ん?俺?俺は、…俺は、あれっ、誰なんだろう?
(鳥男)


【土喰蛇編】

















 本日は、亡き夫・百舌彦と、私・渦あやめとの婚礼の義に、ニギニギしくもお集まり下さいまして、俵に切った羊羹よりも厚くお礼を申し上げます。
かなん おしかけレポーターのかなん、です。高値のハナのあやめさん。亡くなった婚約者と結婚する、とお聞きしましたが。
 ハイ、「真実の口」に誓って。
ナザレ ナザレです。そいつはザレゴトだ、あやめさん!死んだ人間と契りを交わすことが出来るのは、「神」だけだと言うのは、腹かっさばいて申し開くまでもない常識。
 詳細は、質疑応答の果てに明らかになるでしょう。…では、ご質問ある方。

トクメイ、手をあげる。

 ハイ、お名前は。
トクメイ トクメイ希望。
 では逢魔が辻に顔を押し付けたまま、ドーゾ。
トクメイ 4000メートルの頂きに挑み、うっかり9000メートル付近で遭難した自称・アルピニストと、どのような婚礼を執り行うというんですか、渦中のヒト。
 ええ、私、渦(うず)です。雄大なるエーゲ海に鎮座ましますオケアミスの寝返りに起こる、いま、渦中の女。
トクメイ 渦のオンナ、すなわち、ウズメというわけだ。
かなん・ナザレ う、ず、め?
 然り。古来、アメノウズメは、岩戸より太陽を引っ張り出したけれど、この現代にあっては、あやめが、無名のまま退場した夫を、歴史の表舞台に引っ張り出す!
トクメイ どんな出しゃばった内助の功なんです?
 夫は、百舌彦は、死して霊峰に消えた。けれど知ってのとおり、その足取りは、神々の頂きのさらに倍も上!遥か天空の高みより、本日このとき、その御霊が帰還する。時間も、距離も、肉体も、死すらも超越して!

と、ボロボロに身を窶した百舌彦が登場。

ナザレ ギャーッ!でででで、出たあ!
 …夫です。黄泉平坂を下り、黄泉の国の食事を済ませて昇った高天原の高みからいま、「神」となり、会いに来てくれました。
かなん いいい、インタビューしてみましょう!…あなたが、百舌彦さん?高嶺の花のあやめさんからの婚礼の呼びかけに応じて、あの世から、「神」となって表れたの?本当に?
百舌彦 …うぁ、…はぁひ…、はひゅ…るらろぉ…。
ナザレ ザレゴトだ。舌が回ってねえ。
トクメイ 神は人間とは話をしない。
 そう。百舌彦。かつては身分違いのこの肩に並ぶため、アルプスの頂きを目指したアナタの背丈は、けれど今、「神」となって、私の遥か上。
かなん では諦めるんですか、この婚礼。
 いいえ。その高みを追って、今度はあやめが駆け上がります。百舌彦、アナタの高さまで。
ナザレ ということは、神に?
 そう、この身分違いを解消する方法はただ一つ。あやめが、「人」を辞め、「神」に代わる!…薬指!

トクメイ、百舌彦の右手を高く掲げると薬指を突き出させ、指輪を嵌める。

トクメイ …エンゲージ・リングを!

合わせて、あやめも薬指に指輪を嵌める。

トクメイ これより、国産みの儀式を執り行う!
かなん 国産み?
トクメイ 神と人とが交わり、この地に新たな国が生まれる!百舌彦と、あやめ。二人の「神」がハネムーンを過ごす、豊穣の大地!その誕生をもって、渦あやめは、「神」として法務省に認定されます。
ナザレ 人と神とが、エンゲージして国産みだと?ザレゴトだぁ!
トクメイ それをザレゴトか?真のミコトノリか?決めるのは、いつだって、トクメイ希望の、顔なき声の群れだ!…さあ、天の御柱を境に、男神は左側、女神は右側!

柱を挟んで、百舌彦は左(上手)あやめは右(下手)に。

トクメイ ぐるりと回って出逢ったトコロで見事エンゲージ、遭いなりますればお慰み。どちらさんもよござんすか?よござんすね?それでは張り切って参りましょう!レッツ国産み!

百舌彦とあやめ、柱の後ろから出てきて、互いの薬指をくっつける。

かなん 歴史的瞬間です!天地開闢以来、初。神と人とが、エンゲージを!

と、その瞬間。

トール …ええ、影、陰、カゲ。毎度、ご贔屓頂いております。カゲ売りの夜道トールでございます。歴史の裏の、闇の闇から、お届け物でございます。
 届け物?
トクメイ 後にしろ!神聖なる高見の見物の最中だ。
トール クレタ・イオニア、はるばる越えて、遠くギリシャの地からクロネコ宅急便で届いたお届け物でして。…お改めを。
 なんなの?その贈り物って。
トール ほめ殺しのホメロスはオデュッセイア名物、ご存じ、トロイアの木馬!
トクメイ トロイアの木馬?

その瞬間、傘の中から、小指のない無名人たちの群れが飛び出す!

シリカゲル 偽モンだあ!神なんかじゃない、その百舌彦は、偽モンなんだぞぉ!
人々 ザワザワザワザワ。
ナザレ 神と人とのエンゲージの最中、ギリシャから届いた黒猫宅急便!
かなん その木馬の中から、凡百の群れが飛び出しましたぁ!…ちょっと、インタビューしてみましょう。
ポリュケイネス ギリシャ悲劇出身の、ポリュケイネスです。父・オイディプスの跡を継ぎ、テーバイの王に内定してたのに、弟のエテオクレスと刺し違えて、甥のクレオンは墓も立ててくれず、哀れ歴史の闇に忘れ去られました。
ラオコーン トロイア出身の、ラオコーンです。敵兵をまんまんと満載した木馬のプレゼント、その危険性を口が酸っぱくなるほど忠告し、木馬のドテっパラに槍を突き立てましたが、聞き入れられず。二人の息子ともども、蛇にぐるぐる巻かれてエーゲ海に沈みました。
シリカゲル メタケイ酸ナトリウム出身の、シリカゲルです。遠くギリシアから運んできた、  小指・小指・小指のコレクション。そのレア―な鮮度を保つため、クール便の底に敷き詰め  られた、乾燥剤。
かなん 「これは食べられません」てやつネ。
トクメイ そんな化学物質なんかの、食えない発言に耳を貸すか、バカ!
ナザレ アルプスの高みに挑み死して蘇った百舌彦。あれなる神を偽物と宣ったな、乾燥剤。
シリカゲル そうさ。ホントの百舌彦は、これココに(小指を見せる)。
かなん なんです、ソレ。
シリカゲル うん、小指。アルプスの頂きに引っ掛けて、けれどもポッキン。その忘れ形見。
ナザレ 遺品か。DNA検査にかけよう。
 そんな化学物質の戯言に耳を貸した、あやめも知れぬ螺旋の検査結果を待つまでもなく、  国産みは、正当に行われた。
トクメイ これをもって、あやめは懐妊!産殿にて直ちに、出産の義を執り行う!ナンピトた  りと立ち入ること、まかりならん!
トール …意義アリ。 
・トクメイ え?
トール 稗田阿礼に曰く、国産みのチャンスは二度。女から誘って一度。男から誘って、もう  一度。
トクメイ 貴様ぁ!
ポリュケイネス そーさ、国産みは二度、行われる!一度目は失敗し、姿をなさぬ出来損ない、  ヒルコが生まれた!歴史に名を残せなかった出来損ない、たったの小指一本、足りなかった  ばっかりに!
シリカゲル 今こそ積みあげろ、人類史の発生以来、ポッキン、集め続けた小指の山を、偽り  の神の高みまで!
ラオコーンシリカゲル アナロギア・パロディア・ミメーシス、アナロギア・パロディア・  ミメーシス、アナロギア・パロディア・ミメーシス!…蛇よ!

無名の人々から切り取られた小指が山となり、「神」である、渦あやめと並び立つ。
(百舌)












ラオコーン 起きろっ!起きろぉ!トロイアの兵隊たち!ダメだ、眠っては。あの木馬の腹をブチ破って、ギリシアの兵隊が攻めてくるんだぞ!聞けえ!この声!…くそう、どうあっても起きない気だなぁ。ククク、嗅がせてやるぜ。愛情込めて、1500年。じっくり・しっとり、育て上げた、ラオコーンのぬか床、フローラルなその香りを。
ナザレ (とび起きて)臭ぇっ!オェーッ!
ラオコーン 起きたな、門兵。さあ備えろ。木馬から現れる、ギリシア軍の襲撃に!

と、そこへ鼻歌を歌いながら、さざれ、が現れる。

さざれ トロイメライ。暗い未来。…ブレイン・ストリートの住人たち、寝苦しい夜に、「子供の情景」漂う、子守歌はいかが。
ナザレ あっ!いつか瞼に焼き付けた、新人歌手の、さざれさんだ!サインください!
ラオコーン 新人なものか。ヨルダンに屹立するベヒモスでさえも、甘い眠りに誘う、その歌声。覚えがあるぞ。お前は…眠りの神。ヒュプノスだな。
ナザレ ヒュプノス。
ラオコーン あの夜、トロイアの住民のすべてを眠りに落とした、その張本人だ。
さざれ ライク・ア・ローリングストーン。巨大な石が、上流から下流へと転がり落ちる間に、削られ、磨かれ、小さなさざれ石となる。見た目はお手軽サイズのすべすべ・つるつるの小石でも、そのモトモトは、天をも支える、10トンのストーンヘンジ!
ナザレ なるほど。若作りの美魔女だ!それでいいや!サイン下さい!
さざれ (無視して)ブレイン・ストリートは眠りの世界。「ヒュプノスの枕」で眠りに落ちてブレイン・ピープルの住民登録を済ませば、素敵な夢・思う通りの夢を好きなだけ、見ることが出来る。
ラオコーン (周囲に漂う「首」を見渡して)ギリギリの歯ぎしりと、うめき声。とても、夢見がいいとは思えませんナ。
さざれ 「枕」を使わずに眠るからだよ。蛇の道は蛇の抜け道をたどって、非正規ルートで、密入国してきたルール破りには、ヤブヘビの悪夢をサービス。
ラオコーン コイツは結構なプロトコルだ。
さざれ けれど、どうして?ラオコーン。アンタは、悪夢にうなされない?
ナザレ ハハハハっ!知れたことさ。ラオコーン先生にとってはなあ、日常が悪夢で地獄なんだ!寝ても、覚めても、いいことなんか、コレッポチもないんだ!悪夢なんて、息吸って、息を吐くより、フツーの光景だ!聖なる鼻つまみ者を舐めるな、恐れ入ったか!
ラオコーン (ニコニコと)コロすぞ、クソガキ。
さざれ そうか。トロイアの町が眠りついたあの晩から、ラオコーン、あんたの悪夢は覚めないんだ。本当のことしか言わないのに、誰もその声に耳を傾けない。あんたの神様は、真実の口の持ち主は、とんだムッツリ野郎だと思わない?
ナザレ それはザレゴトだ!神はいない!いないからこそ、神なんだ!
さざれ ナルホド。それがあんたの悪夢なんだね。
ナザレ え?
さざれ 誰よりも祈る神を求めていながら、誰よりも神の存在を疑う。否定して、否定して、いつか否定しきれぬ存在に出会うことを夢見ている。
ナザレ そうだ!俺は「疑う者」ナザレ。最も信心深い俺であるからこそ、否定する!この俺が否定しきれぬ存在、それこそが神だからだ!おれの身、一つが、神の存在を探知する、バロメーターだ!リトマス試験紙だ!アルキメデスの湯舟に浸かったこの肌の色が、真っ青に変化したときこそ、叫んでやろう、今、ナザレに、イエス!
さざれ 教えてアゲル。それをね、イケニエって言うんだよ。
ラオコーン・ナザレ えっ?

そこへ、枕を持った、斑目が現れる。

斑目 イケニエに、釘を打ち付けろぉ!

寝ていた「首」が口に釘を咥えている。それはあの、ぬか床の錆び釘。

マダラ姫 (目覚めて)斑目!
斑目 磔刑にしろ!リトマス試験紙たるイケニエ、ナザレのイエスを!イバラの王冠を与え、両の手足を、ぬか床のスメルがお似合い、錆び錆びに錆びた釘で十字架に打ち付けるんだ!

ぬか床の釘によって、磔刑にされるナザレ。

斑目 そして、そのわき腹に、ロンギヌスの槍を突き立てるのは、お前だ!ラオコーン!
ラオコーン えっ。
斑目 やってみろ!かつて己の真実を伝えるため、木馬に突き立てたように!新しきイケニエに、祝福の、一刺し!
ラオコーン いや、だが、それは。
斑目 やれえ!やるんだ!やれるはずだ!これは、俺の夢だ!俺の書いた、サイコーに闇深いエピソードだ!…良かったぜ、新人歌手の口車に乗せられて。
マダラ姫 斑目。お前、引き抜かれたの。
さざれ スカウトしました、マダラ姫さま。路頭に迷った、逢魔が辻で。
マダラ姫 あんた、シンガー・ソングライター志望だって。
さざれ 教えてくれたじゃないですか。どんな言葉も、自分のモノに出来るって。
斑目 あああ、眩しい!眩しいぜ!闇中の、俺がよ。こんなに華々しく注目を集めちまって!知らなかった。一番、闇が濃い場所。それはカンカン照りの太陽を背にした、俺の落とす、影だったんだぁ!焼ける!背中が焼ける!じゅうじゅうと肉の焦げる音!俺の立つ、この場所が一番明るくて、一番暗い!世界を一手に蹂躙する、ここがゴルゴダの丘、その処刑場だ!
(脳民)














マダラ姫鳥男 夢は髪の毛に似ている。美しく、おぞましく、とりとめがない!
かなん 出ました!闇に咲く花、マダラの主。満を持してのプレイ・ア・ロール、マダラ姫!
 磔刑の成れの果てが、場違いのルーブルに、何の御用?
マダラ姫 夢に飽き足らぬ、闇のリスナーの熱烈なるリクエストにお答えして、参上しました。
トール ウットリ。ああ、いい。やっぱいいなあ。眠る前の暗闇で聞く、その囁き声。
 マダラ姫。カラッポの器。欲望のないあなた一人では、たったの一言だって、電波に乗せることは出来ないはず。
トクメイ じゃあ雇ったんだな。ニューフェイスのシナリオライターを。
百舌彦 でもよ、どんなに宵闇に目を凝らしてみても、一人の姿しか見えねえ。

斑目、現れる。

斑目 いや、いるぜ、いる、いる。ご同業のシナリオライターが。マダラ姫、その髪の毛が、耳元でセリフを囁いている!
百舌彦 髪の毛?
鳥男 ごにょごにょごにょ。
マダラ姫 見えるか?見えないか?そう、新しき専属のシナリオライターは、名もなき、狂った王!闇の中に住む、存在しない、存在してはいけない、鳥。そのアザ名を、鵺!
鳥男 クワーッ!(鳴く)
トクメイ 鳥?目をパッチリと凝らして、と。…見えるゥ?
ラオコーン いや、見えない!ただ、髪の毛を翻して、一人でしゃべっているようにしか。
斑目 狂ってる!狂ってるぅ!羨ましいぜ!
マダラ姫 そうだ、狂った!狂って分かった!私に夢は必要ない。眠りはいらない。その眠りに落ちる前の一瞬の闇に囁く呟き。それをキャッチする!それが、私。
かなん そんな闇の踊り場を提供するアナタに今、ついていきます、マダラ姫!
 眠れば、夢が叶うのに。
トクメイ (震えながら)…ぶるぶる。では、神様。眠れぬ者はどーします?
 え?
トクメイ 誰もが彼もが、大手を振って、自分の夢に溺れることが出来るわけじゃない。顔を、  名前を、おぼろに霞めて、闇に留まるしか出来ない。そんな夜だってあるんです。…眠りの  世界で己の欲望に沈む、それが夢。眠れぬ夜に叶わぬ欲望を焦がし続ける、それが、闇。神  様。これは造反ではありません。夢と闇との共存共栄。こいつは住み分けの問題ですっ。
百舌彦 そのストーリー、乗ったぁ!
 百舌彦!
さざれ あやめ。あんたの夢、よかったよ。おぞましいからこそ、美しかった、とびっきり。恐れ多き神の座に上りつめる、そこまでは。問題は…その先。
 先?
さざれ 叶ってしまった夢の先。そこが真っ暗だ。何もないんだ。あやめ、あんた選手としては一流、けど管理者としては、二流だった。残念だけどサ。
百舌彦 おれはよ。欲張りなんだよ、あやめ。いつだって口いっぱいに、噛み切れないほどの  セリフと欲望を頬張って。恐れ多き神の高みにも立ちたいし、同時に、地の底から、天上を  目指して這い上がりもしたい!辿り着くことと、登り続けること、その永久に終わらないイ  タチごっここそ、俺の夢!

遠くから、ナザレの声がする。

ナザレ モンブラン。
百舌彦 標高4810メートル。西ヨーロッパ最高峰。
ナザレ モンテローザ。
百舌彦 標高4609メートル。イタリアとスイスを隔てて咲く、氷のバラ。
ナザレ グランドジョラス。
百舌彦 標高4208メートル。ウォーカーバットレス、三大北壁の一つ。
ナザレ ユングフラウ。
百舌彦 標高4158メートル。オーバーラント三山、汚れなき三姉妹の長女。
ナザレ マッターホルン。
百舌彦 標高4478メートル。ラインの宝石。神々のおわしますトコロ。
鳥男マダラ姫 眠れぬ夜をやり過ごす無名の小指を積みあげ、標高9000メートまで、闇の行軍!
ラオコーン 登る山は一つでも、その登頂のルートは個別だ!一人で歩く。一人で登る。同じ一つの夜を。行くぞお!アナロギア、パロディア、ミメーシス!

人々、渦を残して、バラバラにアルプスへと進む。と、百舌彦倒れる。

さざれ 百舌彦!あんた、そんなに痩せて。…食べてないんだね。
百舌彦 食ったよ。食った…フリして、アルプスに運んだ。記憶を吸われ、自分が誰だかも忘れちまった、名もなき、人間以下のヤツらをさ。あの、アルプスの氷の中に。
さざれ 人間以下の人間たち。あんたが食ったフリの哀しきブレインピープルたち。その冷凍保存した分厚い氷がいつか割れ、また人並みになろうと山頂を目指すアルピニストの群れと  なって、何千、何万という小指を!山頂にひっかける。…ヒュプノスの枕で眠る、それはア  タシ自身の夢だ。だからさ、百舌彦。その夢を、お前は食いな。
百舌彦 え?
さざれ シンガーソングライターのアタシが、楽曲提供してやる。その夢で食い繋いでる間、睡眠過多のアタシは玉のお肌にきゅっきゅとモップをかけて、磨いて、磨いて…。磨かれ、  削られ抜かれたさざれ石は、やがて1ミクロンのゼオライトに代わる。それを何と呼ぶか、  知ってる?
百舌彦 なんて言うんだ。
さざれ シリカゲル。
百舌彦 え?

三拍子が聞こえてくる。

百舌彦 三拍子の足音。俺だ。俺の足音だ。あの山を、また俺が登る。何度も何度も、同じことを繰り返す。これは、フーガ…いや、カノン。自分の頭と尾を食い合う、螺旋のビート!
さざれ あんたの小指は預かっておくからさ。心配すんなって。アタシはシリカゲル。鞄の底に敷き詰められた、乾燥剤。真っ白にフレッシュなまま、ぜんぶ忘れて、もう一度、会おうね。
百舌彦 もう一度、自分が何者か忘れて。いつかもう一度、あやめと並び立って見る、人並みの景色で。

闇の向こうに、マダラ姫。

マダラ姫 聞かせて貰ったよ。世界が凍り付く一言。大収穫さ。
(斑姫)

DATA

2019年 6月20日(木)~23日(日)

北千住BUoY/http://buoy.or.jp/

作・演出
小野寺邦彦

出演
(夜啼鳥篇)
岩松毅/ 田村友紀/ 江花実里/ 大浦孝明/ 林大輔/ 大迫綾乃/ 佐々木千枝子/ 佐藤桃子/ 本田真唯/ 平川千晶

(土喰蛇篇)
石井田拓己/ 川上献心/ 田尻祥子/ 下間晃弘/ 小池舞/ 木村友哉/ 長井健一/ 若尾颯太/ 金澤摩耶/ 椎葉恵
+岩松毅/田村友紀/江花実里

スタッフ
音響:久郷清 / 照明:渡辺隆行 / 美術:金座 / 舞台監督:にしわきまさと / 衣装:小川優太 / デザイン:orange21 / 写真:松村事務所 / イラスト:町田メロメ / 制作:永井友梨、澤岡史織、柴山花奈子(架空畳)

協力:マーカスフィルム株式会社、アナログスイッチ、劇団風情、A-LIGHT、劇団木霊、株式会社アールエージェンシー





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