WORKS | KAKU-JYO
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1964年、アメリカ。

1964年、アメリカ。 ロードサイド。看板。ポルノスター。宇宙人に逢った男。技術。信仰。そして…幽霊。科学とオカルトそのどちらに世界の重心が傾くか、今よりずっと曖昧だった時代のおとぎ話。

Side1:「失踪」
1944年。地球外生命体と出逢い、ある「技術」を託された男は、駆け出しジャーナリストのインタビューを受ける。その取材が科学雑誌に載るか?オカルトタブロイド誌に載るか?二人は、未来での答え合わせを約束した。そして20年。女は再び、男の元を訪れた。肉体を失った、名無しのゴーストライターとして。

Side2:「追跡」
週明けの月曜日。街中の看板という看板に「私の顔」が現れた。私にそっくり生き写しのその顔の持ち主は、決して表には現れないアンダーグラウンドのポルノスターだった。看板には一行「SHE DIED」…彼女は、死んだ。私は彼女の幽霊なのか?それとも…。私は幽霊の判別方法を持つ、ある男の元を訪ねた。


部屋の中。今から20年前の風景。女がメモを取りながら、男にインタビューをしている。

 …では、確かに出逢ったんですね。ミスター・アダムス。あなたは、その…(長く逡巡して)…宇宙人に。
 宇宙人。なるほど。宇宙人、ね。
 何か?
 流行りのコトバだね。私は…「彼」と呼んでいるけど。
 「彼」。
 まあ、好きにしたらいい。呼びたいように呼べば。
 戦場で、遭遇した。
 無線が傍受されてたんだ。行軍の途中で爆撃を受けて…。部隊は散り散り、仲間とはぐれてね。無我夢中で逃げ込んだ竹やぶに、塹壕を掘って一人、そこでしのいだ。1日…2日…3日…4日…5日。

男が喋る間、女はメモを取っている。

 その間、飲まず食わず。
 (頷いて)5日目の夜。目の前が霞んで…モーロ―とした意識がブツブツと途切れ始めた。もうダメだ。ブラックアウト…その瞬間。身体中が、暖かく…真っ白い光に包まれた。死だ。私は、死んだのだ。そう思った。
 だが、そうではなかった。
 光の中で目を明けた。…そこに、「彼」がいた。
 それがファースト・コンタクト。…「彼」は、あなたに何を?
 分からない。言葉による意思疎通をしたワケではない。ただ、何となく…。
 何となく?
 「彼」は私に…そう、プレゼントを渡しに来た…そう思った。両手を差し出して…私は、「それ」を受け取った。
 「それ」とは、具体的に?
 技術だ。テクノロジー。我々人類が、あと100年、いや千年。かかっても恐らく手に入れられないであろう、規格外の、科学技術。
 どんな技術なんです?
 マイクロウェーブ。
 マイクロウェーブ?
 2・4ギガヘルツという数値のマイクロ波を照射することによって、物質の水分子を振動させ、加熱し、蒸発させてしまう。
 2・4ギガヘルツ。というのは…ええと、つまり…?
 一秒間に24億5千万回の振動、ということだ。それにより、分子という分子が加速し、内部から、途方もない摩擦熱を発生させる。
 確かに。我々の常識からは理解しがたい、遥かにブっとんだハナシです。
 …戦争に言って、アタマがぶっ壊れたと思ってる?
 それを判断するのは、読者ですから。…ではあなたは、今もその宇宙人と…「彼」と繋がっているのですか?
 分からない。
 分からない?
 「彼」と「私」は言語によってコミュニケートしたわけではない。通じ合えるのは、ただ「技術」によってのみ。水を振動させ、蒸発させる技術…。「彼」が私に…人類に授けたこのテクノロジーの使い道を、「彼」は観察しているのではないか…?
 まるで神を裏切って人間に火を与えた。プロメテウスのようですね。
 …君、文学部?
 現代詩専攻です。…続けて。
 目が醒めると私は塹壕の中にいた。飢えも、痛みも、何もなかった。静かだった。恐る恐る立ち上がり、ほら穴から這い出た。するとそこは…荒野だった。草木一本生えない、荒れ地だった。私は竹やぶに逃げ込んだはずだったが…。私は歩いた。歩き続けた。部隊に合流するために。だが…部隊は消えてしまった。味方も、そして敵の部隊も。蒸発してしまったんだ。この世から、消えた…。そして…そしてすぐ、戦争が終った。
 …。

しばしの沈黙。女が、パタン!とメモ帳を閉じた。

 お疲れ様でした。インタビューはこれで終りです。ミスタ―・アダムス・マクモニーグル。宇宙人に逢った男。プロメテウスの火を授かった新人類。…お陰様でいい記事が書けそうです。感謝します。

女、男に握手を求める。男、応じて。

 そりゃ結構だね。ミス・スゥイーティ。
 スゥイーティ・スイート。覚えておいて、この名前を。近い将来、きっとピューリッツァー賞を受賞する私の、これがデビュー原稿。あなたは、私のインタビューイ、その第一号。
 光栄だね。私にとっても、これが人生で初めての取材だよ、レディー。

女、去りかける。が、フと振り返って。

 …一つ、お聞きしても宜しいでしょうか?これは、オフレコで。
 何だろう?
 一秒間に24億5千万回のマイクロウェーブ照射。…文学部出身の私のアタマでは到底、理解できる理論ではないのですが…。あなたはその技術を、これから何に使うおつもりなんです?
 今、2つの会社がこの技術に興味を示している。高く買ってくれる方に売るさ。
 2つの会社。それは…?
 一つは、家電メーカー。そしてもう一つは…
 もう一つは?
 軍需企業だ。
 軍?
 この技術を家電メーカーが買えば、それは冷えた食べ物を温める商品に変わるだろう。
 軍需企業が買った場合は?
 …。ミス・スゥイーティ。目覚めた時、私は荒野にいた、と言ったろ。草木も、敵も、味方も、蒸発してしまった、と。あれは…文学的な喩えではないのだよ。植物も、人間も、水分で出来ている。マイクロウェーブは、その摩擦熱でもって、物質を内部から破壊する技術でもあるのだ。
 では、兵器に…。
 私も君に質問のお返しをしよう。詩学専攻の、駆け出しジャーナリスト殿。
 え?
 「宇宙人と逢った男」。そのインタビュー記事を、君はどの出版社に持ち込むつもりなんだ?
 それは…(ニヤリと笑って)2社に売り込みます。一つは、権威ある一流サイエンス・マガジン。そしてもう一つは…ゴシップと俗悪が売りの、三流オカルトタブロイド雑誌。そのどちらが買ってくれるかで…ミスタ―・アダムス・マクモニーグル。あなたが最先端科学の発見者か、それともアタマのおかしいオカルト信者か。記事の内容と世間の評価がそっくり、入れ替わるわ。
 (笑って)なんてこった!
 未来に、答え合わせをしましょう、ミスタ―・アダムス。あなたの得たギフトが、冷えた食べ物を温める道具に変わっているのか、或いは、人間を内部から蒸発させる恐るべき殺人兵器を生み出しているのか。
 私が、科学の申し子か。イカれたオカルト野郎か。
 その答えが出た頃…。また会いにきます。きっと。
 ピューリッツァー賞作家として、ね。名詞は捨てないでおこう。ミス・スゥイーティ・スイート
 ありがとう。失礼致します。

ストップモーション。そのまま、20年の時間が過ぎる。

(Side1:「失踪」)

女、電話ボックスから電話をかけている。呼び出し音が鳴っているが、相手は出ない。女、イライラとした様子で独り言を呟く。

 …顔。顔。顔。街中にディスプレイされた、広告看板。その全てがある日、突然、自分の顔で埋まる。どの駅で下りても、どの通路を歩いても、どのビルを見上げても…そこに、看板。看板の中に、私。私の顔。媚びた目。値札を付けられた、商品の目。街の中で、私は私に取り囲まれる。路を歩く人が、フと気付いて私を見る。看板の顔と私の顔を見比べる。指を指す。背後に立つ。付いてくる。私は踵を返して、早足で立ち去る。…どこへ?どこへ行っても…逃げても、立ち止まればそこにもやっぱり、私の顔があるのに…。あなたは、誰?私は…あなたを知らない。全身に鳥肌が立つ。震えて、立てなくなる。立てなくなって…(電話が繋がらないことにイラついて)ああ、もう!バカ!

女、ガシャン!と受話器を置く。と、すぐまたダイヤルを回す。相手はやはり、話し中である。

 出ろッ!出ろッ…!いつまで話してんだ…。私の時間は、一分1ドル…。

別の空間に、男。電話で誰かと話している。

 会員番号6600(シックス・シックス・オー・オー)。…看板を見たよ。…ああ。真実、残念だ。彼女こそは我々の女神、真昼の月、夜の太陽。悔やんでも悔やみきれんさ。雀の涙に投げ込むコインほどにも、供養の足しにならないと思うけど…。気持ちだから。彼女のピンナップと過ごす予定だった夜の寝酒1年分、700ドルの寄付を、我がホーリィ・ホリィ・ファンクラブに。…うん、それじゃ。

男、電話を切る。と、その瞬間に、また電話のベルが鳴る。

 (少しヒルんでから)…ハロー?
 遅いッ!よくも私に7分も時間を使わせたわね。7ドルの損失。請求書を書きます。
 …どちら様?
 あなたの客よ。ビジネスマナーとしての、これはアポイントメント。伺います。場所はソコ。時間は、今スグっ!

女、ガシャン!と電話を切ると、次の瞬間にはドアを蹴破り、男の部屋に入って来た。

 本日アポを頂いております、アンジェリン・ウォーターズです。
 は?
 アポは取りました。電話で。
 いや、まあ…電話は確かに…あった…ケ…ド…。

男、女の顔をマジマジと見て。

 …何か?
 そんな…まさか。信じられない。顔、顔、顔…。その顔は!
 顔?
 ままま・まさか…イヤ、間違いない。あなたは…この顔は…ミス・ホーリィ・ホリィ?
 ホーリィ・ホリィ…。フーン。いかにも作り物って感じの名前じゃん。
 え?
 でもピンと来た。それが、あの広告看板にプリントされた女の名前。今、街中にディスプレイされてゲップが出るほど溢れてる顔・顔・顔の商品名。ソーよね?そーなんだ。
 あなたは…?
 既に名乗った。時間の無駄だけどもう一度だけ挨拶します。私は、アンジェリン・ウォーターズ。そしてあなたは、アダムス・マクモニーグル。またの名をミスター・ストレンジ。
 おや、随分、懐かしい二つ名ですナ。
 子供の頃読みました。父親が読み捨ててゴミ箱に捨てた、3流タブロイド誌をこっそり拾って、夜中、ベッドの中で。その記事の中に、あなたのインタビューがあった。
 どんなインタビューでした?
 「宇宙人に逢った男」。
 懐かしいなー。それはきっと、私が最初に受けたインタビューだ。
 戦場で仲間とはぐれて…宇宙人に逢って…スゴいテクノロジーを貰ったんだって?
 そう。人類の持てる水準を大きく超えた、それは巨大な科学技術だった。
 (鼻で笑って)カガク…科学ね。
 何か?
 いえ…。続けて。宇宙人がアナタに、どんな技術をくれたって?
 宇宙人…私は「彼」と呼んでいるが…。
 「彼」。
 そう。「彼」がくれたモノ。それはまさに恐るべきギフトだった。
 ゴクリ。
 2・4ギガヘルツのマイクロウェーブによって、物質の水分子を振動させ、加熱し、蒸発させてしまう。2・4ギガヘルツというのは…つまり、一秒間に24億5千万回の振動、ということだ。それにより、分子という分子が加速し、摩擦熱を発生させる。
 よく分かんないけど…。スゴいのね。…それで?
 ん?
 それでその技術は、何の役に立つの?
 …食べ物を温めることが出来る。
 ハ?
 ダイヤルを回して、90秒。チン!と音が鳴れば、冷え切ったピザもアツアツに蘇る。
 (あきれ果てて)それだけ?分子を1秒で24億5千万回振動させる、恐るべきオーバーテクノロジーを使って…出来ることが…ゴハンをあっためるコトだけ?
 私はコレを『電子レンジ』と名付けて売り出そうと考えたが…。どの家電メーカーに持ち込んでも、ケンモホロロに門前払いだった…。
 あったり前じゃん。たかがゴハンをあっためる為に、分子を振動させる?誰がそんなゴタイソーなトリックを使うよ。コンロであっためりゃ、充分でしょ。
 誰もがソー言った。理解されなかった。だが私は…「生物の水分を振動させる」…この技術の、もう一つの使い道を見つけた。それが…。
 幽霊の判別方。
 その通り。そのニッチな技術でほそぼそと暮らしております。
 ソレよ。ミスター・アダムス。幼い頃の記憶を辿って、私があなたに今、アポイントメントを取った理由。…私は、幽霊なのかもしれない。
 え?
 週明けの月曜日。街中の看板という看板に、突然、女の顔が現れた。商品名もない。連絡先の電話番号もナイ。媚びた目で笑う女の顔が一つ、その横にはたった一行のコピー。
 「SHE DIED」…彼女は、死んだ。
 …私は彼女を知らなかった。けれど、ミスター・アダムス。あなた、先ほど口走りましたね。私の顔を見て。確か名前は…?
 ホーリィ・ホリィ。
 よくご存じのようで。教えて下さる?ホーリィ・ホリィ。彼女は、何者?
 そう、彼女こそは…我ら孤独なロンリー・ダンディ・ガイズの女神。タブロイドに舞い降りた天使だった…。
 よーするにポルノスターね。いかがわしい男性誌で、顔と身体を捧げる、慰み者のピンナップ・ガール。
 彼女を悪く言うなッ!私はファンクラブ・会員ナンバー6600だ。
 別に。彼女と彼女の職業について、とやかく言う気は私にナイ。顔を。カラダを資本にアンダーグラウンドの階段を昇りつめた、彼女はジャンヌ・ダルクであったのかもしれない。ザ・プロブレム・イズ・オンリー・ワン。問題は…
 問題は?
 そのカラダに、私とウリ二つ、まったく同じ顔がくっついていた。そのことタダ一つだけ。
 じゃあ、あんたはやっぱり、全くの…
 別人。双子の姉も、生き別れの妹もいない。他人の空似。或いは…幽霊。
 幽霊。
 死んだんでしょ、彼女。
 …ええ。あられもない下着姿で、川に浮いていたところを発見されたそうです。あの看板は、彼女の葬儀、その告知なのです。
 葬儀の、告知。
 彼女は…ホーリィ・ホリィは、その顔とカラダ一つで稼いだマネーの殆どを貯蓄していました。そしてもし、自分が亡くなった時には…その財産の全てを使って、街中に自分自身の葬儀、その広告看板を出すことを、遺言として残していたのです。決して表舞台に出ることなく、ピンナップの中で男たちを優しく慰め続けた彼女の、それが最期の晴れ舞台というわけだ。…この家の前の道…ロードサイドにも、看板が出ていたでしょ。
 え?…ええ。
 あれは、私が寄付して建てたものです。700ドル。こんな田舎街にまで看板を出すほどには、彼女の遺産もホンの少し、足りなかったようで。
 その葬儀、あなたは行かないんですか?会員ナンバー・6600。
 ごらんの通りの田舎町。旅費がありませんよ。ハイウェイを一昼夜、ブっ飛ばして会場まで向かう、足も。
 その足、私が出します。幽霊が、足を。フフフ。
 あんたが?ええと…ミス・ウォータズ。
 経費を出すわ、ドカンと。
 ケーヒ?
 私、広告代理店でマネージャーをしています。
 広告…じゃあ、看板屋?
 その看板の総元締め。
 じゃあ手配師か。
 広告看板は、今や街を着飾る、都市のドレス。どの駅に、どの路に、どのビルに、どんな看板を出すのか。飾るか。それはコントロールされ、デザインされなくてはならない。そのデザイナーが、私。けれどある日、その指揮棒は奪われ…街は私の顔で溢れた。私ではない、私の顔。死んだ私の…顔。
 でも、他人の空似だって…。
 その看板を一目見たとき、私には分かった。私にだけ分かった。髪の生え際、化粧で隠したシミの位置、剃り残したうぶ毛の数まで、その顔は私とピッタリ、同じ。ひょっとしたら、私は…彼女が死んだ瞬間に生まれた幽霊なのかもしれない。生まれてから今日まで、広告代理店のマネージャーとして働いてきた…その記憶をもって記憶ごと、週明け月曜日に生まれたのかもしれない。
 コイツはコケの生えた神学論争だ。けれど、あなたの家庭には、職場には、あなたを記憶している人がいるでしょう、ウォーターズさん。
 あの看板を見た日から…私、出社していません。家にも戻っていません。恐ろしくて…。逢ったのは…アポイントをとった今、ここ。ミスター・「ストレンジ」・アダムス。…あなた一人。
 ミス・ウォーターズ…。
 ンじゃっ!行きましょう!ハリー、ハリー、ハリー!
 え?え?
 モタモタしないでっ!私の時間は、一分1ドル。向かいましょう。ハイウェイを一昼夜、ブっ飛ばした先にある、彼女の…私の、葬儀会場へ。そして…
 そして?
 そして判別して欲しい。私と私と同じ顔で死んだ彼女とを並べて…そのどちらが肉体で、どちらが幽霊だったのか。宇宙人から貰ったという、俄かには信じられない物差しで、この俄かには信じられない話の、ジャッジを。
 …。

モーターサイクルの音が聞こえてくる。

(Side2:「追跡」)

DATA



illustration : 町田メロメ

2023年7月7(金)~9(日) /14(金)~16(日)
@Paperback Studio
【作・演出】
小野寺邦彦

【出演】
岩松毅 /田尻祥子 /日野あかり

【スタッフ】
衣装:小川優太 / デザイン:orange21 / 写真:松村晋一朗 / イラスト:町田メロメ / 制作:永井友梨 / 協力:日本のラジオ/ 共催:Paperback Studio

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