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上演作品

▼Paperback Showcase Vol.03
「量子探偵 かくも永きプロレゴメナ」

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Paperback Showcase Vol.03『量子探偵 かくも永きプロレゴメナ』

運命の乱数調整、「確率の捨て場」として選んだ鉄火場の競馬場で出逢った男が持ち込んだ依頼。 それはある人物を襲った「未来の記憶喪失」その原因を解明することだった。 そのヒトには過去と未来の記憶が同時に存在し、そして男は、未来の記憶を分けて貰うことで財産を築いてきた。 だが今、過去も未来も全ての記憶を失ってしまったその被害者に逢うため、全財産と引き換えたはずれ馬券を入場切符に、ウロボロスの環状列車・山手線に乗り込んだ私が出会ったのは シャボンの表面張力に身を縮こまらせた座敷童だった。
私は量子探偵、ウォーターヘッド・順子・ノイマン。 今、ポケットには1セントの小銭も持ち合わせてはいない。















かえで …目をつぶればいつだって、そこにシャボン玉が見えたのです。ピンク、橙(だいだい)、青、うす緑…。ひとつところに留まることなく、玉虫色に変化していくシャボンたち。所在なさげにふわふわと漂い、やがて一つと一つがくっつけば、互いの表面を滑り合い、新しいひとつに化ける。くっつき合うことで、身体を小さくしよう、小さくしようと懸命に身を縮こまらせた結果の、それは「ヒョーメンチョーリョク(表面張力)」という名前の魔法らしいのであります。けれど知っての通り、シャボン玉は弾けるのであります。あらかじめ弾けるためのおしくらまんじゅう、円運動。ギュッと身を寄せ合った子供たちは、やがて粒よりも小さく弾けてしまうのでアリマス。…パチン!

かえで、誰かの背中を叩くと、闇の中に消えた。その闇の中から、ワーッ!と荒々しい歓声が聞こえる。馬群が通り過ぎる音。そこは競馬場らしい。ノイマンとヒビトがいる。

ヒビト …どの馬です?
ノイマン え?
ヒビト どの馬に賭けたんです?
ノイマン 先頭を走る馬。
ヒビト 1枠1番。(新聞紙を拡げて)…ええと、名前は、っと…?
ノイマン プロレゴメナ。
ヒビト プロレゴメナ…。
ノイマン 序章、という意味らしいですよ。
ヒビト 序章。
ノイマン 手垢のついていない、一番最初の1ページ目。誰よりも、マッサラ先頭。そこが気に入った。
ヒビト ナルホドね。けれど、大層な名前がつくと競走馬ってのは…ウン。生涯、500戦未勝利、倍率は…20万5千650倍? 
ノイマン それって大穴?
ヒビト アナなんてもんじゃない。ブラックホールだ。
ノイマン へー。ブラックホールなら、丁度最近お近づきになったけど。
ヒビト さすがのスケール、さすがの量子探偵ですな。

馬群が目の前を通過し、ゴールに飛び込む気配。

ヒビト …残念ながら、ビリケツです。
ノイマン ウン、そりゃ縁起がいーや。
ヒビト ハ?
ノイマン ぐるぐると回る周回レースのビリケツは、裏を返せば先頭と同じです。そーでしょ?そーですよね?
ヒビト …そーかな?
ノイマン そーなんです。…さて、退散しましょう。最終レースの終った鉄火場に居残る感傷は持ち合わせちゃいない。(2にぴったりとくっついて)…ぴたっ。
ヒビト …あの。
ノイマン ハイ。
ヒビト なんでそんなにくっついて歩くんです?
ノイマン そりゃ、有り金すっちまって、オケラの懐がブリザードだからだよ。ああ、サムい、サムい。
ヒビト …あんた、ホントにウワサの量子探偵?
ノイマン ハイ。量子探偵のウォーターヘッド・順子・ノイマン。…量子力学を用いた物理現象を手がかりに事件を捜査、解決する探偵です、表向きは。便宜上「探偵」と名乗ってはいますが、なんでも屋です。なんでもやります。依頼者優先、絶対秘密厳守。
ヒビト 啖呵はご立派。でもサ…、おかしくない?
ノイマン ナニがぁ?
ヒビト 量子探偵は、この世界にいくつも同時・平行に存在している「現実」の中から、自分の好きな「現実」を観測して、選択することが出来るんでしょ?
ノイマン ウーン。まあ、そこんところが…ちょっと誤解のある部分でして。
ヒビト オカシーじゃんか。結果が好き放題に選べるのなら、どーしてブラックホールの穴馬が1位でゴールに飛び込む現実を選ばず、今、スカンピンのオケラなんです?
ノイマン …このレースは、私にとって、「確率の捨て場」だった。
ヒビト 「確率の捨て場」?
ノイマン いつも自分に都合のいい現実だけを選んでいくと…どんどん、道が先細っていって、選択肢が減ってくの。だから、テキトーなタイミングで運を天に任せた、乱数調整。お分かり?
ヒビト いえ、ちんぷんかんぷんですが。
ノイマン タマにゃあ、イカサマなしのスゴロクを転がしてみなきゃ、ダメ。そーゆうこと。…ヘックション!ぶるぶる…。
ヒビト だからってサブイボ立つほど徹底的に負けなくたってイーでしょ。いったい幾ら賭けたんです?
ノイマン 全財産。
ヒビト 全財産…の、どれくらい?
ノイマン だから、掛け値なしの全財産だよ。
ヒビト えっ、えっ?
ノイマン そんなわけで、今、私の懐も通帳も、キレーさっぱり、カラッポなワケだ。正真正銘、1セントの財産もナシ。…つまり。
ヒビト つまり?
ノイマン あんたの依頼を受けて報酬を頂かなきゃ、どーにもならない。…そゆワケ。
ヒビト …イキだなぁ。おたく、まったくイキだよ。そーこなくっちゃ!寒さしのぎにひっついた私の懐をまさぐる権利をあげよう!(懐から)…はい、お名刺。
ノイマン (名刺みて)ヒビ・ヒビト?
ヒビト そ。ヒビ・ヒビト。この物語の、あなたの、今回の依頼主ですよ、量子探偵のノイマンさん。うーん、ミステリアス!芝居の導入ってのは、こーでないと、ネ。
ノイマン なんかやりづれーな。…それで?どんな捜査のご依頼なんです?
ヒビト …あるヒトの、記憶喪失。その原因を解明して頂きたい。
ノイマン 記憶喪失。…勿論、タダの記憶喪失じゃありませんね?
ヒビト ズバリ。…未来の記憶喪失。
ノイマン 未来の記憶喪失?
ヒビト そのヒトには、過去と同じく、未来の記憶もあるのです。いや、あった。だが、今それは失われ…暗い袋小路に迷い込んでしまった。どうか、そのヒトの、未来の記憶を取り戻して頂きたい。どーです?
ノイマン いいね。風変りで。
ヒビト 依頼成立ですナ。…それでは詳しい話の前に、シッポリと、場所を変えましょう。



















ネオン …ドンっ!あ痛ぇっ!(4、駆け去ろうとするので)チョイと待ちなぁっ!ブツかっておいて、挨拶ナシはねーだろ。
かえで 見えない。なーんも見えない。来た道も。行く先も。アタシは誰?ここはどこ?…下ります、下ります!
ネオン …おっ、アンタ…?なんだか不思議と馴染み深い、そんな顔してんニャ?
かえで え…?
ネオン ま、イーヤ。とりあず、名前、聞ーとこか?
かえで 名前?
ネオン そーだよ。
かえで …帰って。
ネオン ン?
かえで …帰って。
ネオン 帰って?…って、どこに?どこから?
かえで 全部から!…「かえって」に、濁点ひとつ付けて…か・え・で!…バッチン!

かえで、ネオンの背中をバチン!と平手で叩き、去る。

ネオン あ痛ぁ!せせせ、背中に、真っ赤なモミジが、モミジが咲いたぁ!
ノイマン (観察して)いや、これは、カエデだ。
ネオン カエデぇ?
ゲルダ アハハ。どっちにしろ、見事な紅葉(コーヨー)ですな。アハハ。
ネオン ヒドいや、グスン、グスン。登場するまで、舞台ソデでこんなに待たされて、挙句にこの仕打ち。グスン、グスン。
ヒビト あの、回想シーンからやたらシームレスに現れた、あなたは?
ネオン 量子AIのネオンです。得意技は、四方八方、めたらやったら、しらみ潰しの行き当たりバッタリ!捜査だにゃおん。
ヒビト 量子AI?
ノイマン 我が探偵事務所の、肉体労働担当。
ネオン ブルーカラーを舐めんニャよ。
ヒビト はあ。
ノイマン 丁度いい。このネオンを使って、先ほどのエキゾチック体験、座敷ワラシの記憶喪失が何故起こったか?ソイツをご説明しましょう。
ヒビト えっ?分かったんですか?
ノイマン それは私、頭脳労働担当ですから。…と、その前に。ジロリ。
ゲルダ …え?
ノイマン こっから先は企業秘密の細道でして。立てた聞き耳をパタンと閉じて、移って頂けますか、隣の車輛に。
ゲルダ こりゃ、失敬。ハハハ。車掌のゲルダ・キクロースでした。ハハハ。

ゲルダ、去る…と見せかけて、聞き耳を立てている。

ノイマン …さて、お勉強。従来のコンピューターでは、「ゼロ」と「イチ」、そのどちらかを選択し続けることで情報を処理していた。
ネオン (ケン・ケン・パ、で)ゼロ・イチ、ゼロ。ゼロ・イチ、ゼロッ。
ノイマン それに対し、量子コンピュータは、「ゼロ」と「イチ」、そのどちらをも同時に「重ね合わせて」計算することで、無限に近い数の演算を可能にしている。
ネオン (その場で足踏みして)ゼロ、イチ。ゼロ、イチ。ゼロ、イチ。ゼロ、イチ。
ノイマン その無限に近い可能性の中から、たったの一歩を選択する。実はこれが、ヒジョーに、難しい。
ネオン 可能性が多いだけに、難しいのですニャ。
ノイマン これがいわゆる「フレーム問題」。可能性にがんじがらめで踏み出せないその一歩を、けれど踏み出す方法。…それが分かりますか?
ヒビト ハテ?
ノイマン 簡単です。並べられた選択肢の中から、どれか一歩が決められないのなら…同時に2歩、足を出してしまえばイイ。それも、
ヒビト それも?
ノイマン まるで正反対の結果を導く一歩と一歩を、同時に。
ネオン (両足を出して)ビーン。
ヒビト ハーなるほど。…ン?イヤ、でも、それってサ。
ノイマン 何です?
ヒビト 結局、その…丁か半か?の出たトコ勝負。運に身を任せたバクチと一緒じゃないスか?
ノイマン そのとーり。結果は同じです。だが大切なのは、プロセスだ。
ヒビト プロセス。
ノイマン 情報の取り扱い、そのリテラシー。並列に並べられた情報は、正しく並列に取り扱う。決して偏ることなく、平等に。

ネオン、まるで異なる2つの「一歩」を同時に出して進んでいく。

ネオン …ゼロと、イチ。
ノイマン 右と、左。
ネオン 上と、下。
ノイマン アタマと、シッポ。そして、
ネオン 過去と…未来っ!
ヒビト あっ!
ノイマン ピンと来ましたか。ピンと来ましたね。
ヒビト そーだ。アノ人は言った。時間にはアタマもシッポも、過去も未来もなく、全て手を伸ばせば同じ距離にある、と。
ノイマン けれどその、横並び・掴み取りの中から、実際に、あなたが受け取ったのは?
ヒビト (当たり馬券を出して)…未来の時間ばかりだ。
ネオン ザッツ・ライト。過去も未来も、同じ「情報」として、等しく扱う、その為に、未来の記憶を一つ、差し出したのなら。
ノイマン 過去の記憶も一つ、差し出す。これが情報のリテラシー。
ヒビト 私はアノ人から、過去の記憶をタダの一つも受け取っちゃいない。
ノイマン 並列な情報の中から、あまりに偏った性質ばかりを選択してゆくと。
ネオン …未来、…未来、…未来、…未来。
ノイマン 可能性の枝葉は先細り、やがて出口なしの行き止まりにブツかる!
ネオン ビッタン!…これをハレーション・チョイスと呼びますニャ。
ノイマン 当たりクジばかりじゃギャンブルにならねーぜ。当たりも引く。同時にハズレも引く。その態度こそが、ルールあり、の世のコトワリ。
ヒビト その秩序を乱したことで、アノ人の記憶は、出口なしの行き止まりにブツかっちまったってワケですね。そーなんですね。
ネオン ピンポン、そのとーり。…多分ね。
ヒビト 原因は分かった。それでこの先、どーすれば?
ノイマン そーですね、差し当たり…(ネオンの背中をひっくり返して)パチン!

と、ノイマン、ネオンの背中を叩こうとするも、ネオン、直前で身をひるがえした。

5 (2とカラダを入れ替えて)クルリ。
ヒビト (背中に1のビンタを受けて)にゃあああ!
ノイマン …と弾けたカエデの痕跡、回想シーンのシッポを追いかけてみましょうか。取り合えず、次の駅で下りて…。

ノイマン、電車の出入口に向かう…と、ネオンがそれを制した。

ネオン ビックン!動かニャいで!
ノイマン え?
ネオン そのまま、そのまま…。ノイマン。いま、アタシら、観察されてるニャ。
ヒビト 観察?
ネオン じっくり・じっとり。聞き耳を立てて。口に戸を立てて。

と、聞き耳を立てていたゲルダ、現れて。

ゲルダ 車掌の、ゲルダ・キクロースです。皆さま、窓の外をご覧下さい。
ヒビト 窓だって?…どれどれ、っと?…ン?なんだ、この景色?
ネオン キキキ、キャーッ!風景が、光のスジになって、横っすべりしてるニャ!
ノイマン これは…山手線が…とんでもねー早さで超高速運転してやがるんだ!
ヒビト 一体、何キロ出てるんです?
ゲルダ え、只今の速度は…時速10億7900万キロメートル。
ヒビト じゅじゅじゅ、10億?
ネオン それって、光の速さと同じじゃニャイかぁ!
ゲルダ ハハハ。途中下車出来るもんならしてみやがれ。ハハハ。ぐるぐる回る高速のリングの中で、しばしのお付き合い、お願いしますヨン。
ノイマン …!

DATA

2024年10月24(木)~28(月)

Paperback Studio

作・演出
小野寺邦彦

出演
江花実里 /佐藤拓実 /本田真唯 /富山華佳 /江花明里
スタッフ
衣装:小川優太 / 制作:永井友梨 / 協力:革命アイドルちゃん/ 共催:Paperback Studio

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