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上演作品

▼Paperback Showcase Vol.04
「√3人姉妹」

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Paperback Showcase Vol.04『√3人姉妹』

私たち姉妹は永い間、この家の中でずっと二人きりだった。
ただ、二人でいること。
それ以外には何もなかった。
必要がなかった。
例えば…私たちは二人とも、名前を持ってはいなかった。
朝、目覚める。
目覚めて先に「姉さん」と声をかけられた方が姉。
声をかけた方が妹。
それで良かった。充分だった。
ところが…今朝、困ったことが起きた。
三人目が現れたのだ。
私以外のもう一人、以外にさらに、一人。
私たちには名前が必要になってしまった。
朝、目覚めてリセットされる関係以外、何一つ手にしてはいけない。
そのルールが歪んでしまった、思えばそれが始まりだった。

地上から人がいなくなってしまって随分経つ、らしい。
私はこの家から出たことがないから本当のことは分からない。
とにかく、誰もいなくなったはずの世界から新しい家族がやって来て、私たちは三人姉妹になった。 さて私は、私たちは、明日の朝も目覚めることが出来るだろうか?

そして目覚めた私は…一体、どんな名前で呼ばれるのだろう?















椅子に座った女がナイフを動かしている。果物の皮を剥いているような素振りだが、その手には何も持っていない。女、歌うように独り言を呟きながら。

女1 ♪赤ら顔 ぷつりと小指の爪立てて たちまち真っ青 みじめな顔。

女1、夢中になって皮を剥いている(ように見える)。やがて、剥いた皮が地面につきそうになったらしい。椅子の上に上って、なお剥き続ける。

女1 …ぷつり、と、赤ら顔の表面に僅か0.2ミリ。私は小指の爪を立てると…まるで魔法のようにつるつる、つるつると、リンゴの皮は滑り落ち、たちまち一本のロープに変わる。私は慎重にそのロープをつまみ、すっかり剥けてしまったリンゴにまた、くるくると巻き付ける。けれどおかしいわ。いちど剥いてしまったリンゴの皮を、もう一度まったくおんなじに巻き付けたとしても、それはもうまるで別のもの。はっきりいって…悲惨だわ。リンゴの表面に、かつてリンゴの一部だった皮がだらしなくひっついているだけ。私は知る。この世界には、取り返しのつかないことがあるって。だからなおのこと、止められないんだって。…♪赤ら顔 ぷつりと小指の爪立てて たちまち真っ青 ふた目と見られぬ、みじめな顔・顔・顔…。皮、皮、皮…。顔、顔、顔…。

その最中、女2と男が現れる。

女2 姉さん。
女1 (夢中で聞こえず)顔・皮、顔・皮、顔・皮、顔・皮…。
女2 姉さん。
女1 (なお没頭して)顔皮顔皮顔皮顔皮顔皮。
女2 (椅子を蹴って)姉さん!
女1 え?…あっ!…プツリ。

と、女1、手元を誤り、剥いていた皮が途中で途切れてしまった。

 …。

男、無言でその皮を拾うと、しばしまじまじと眺めて…溜息をついた。

女1 あーっ!あ、あ、あーっ!あーーーっ!…どうして話しかけるの?
女2 え?
女1 どうして話しかけたりするのよ?集中してたのに。一度も途切れることなく、皮が剥けるところだったのに!台無しじゃない!
女2 だからよ。
女1 だから?
女2 深刻な顔で、我と時間を忘れてたから。アナタがそんな時、ロクなことが起きない。起きたためしがナイ。
女1 そんなこと、
女2 だから。2回声をかけて、返事がなかった時は、3度目に椅子を蹴ってくれ。これはアナタがお願いしたのよ。そーよね?お忘れになって?
女1 忘れちゃいないわ。どーもアリガト。椅子を蹴ってくれて。

女2、蹴り飛ばしてしまった椅子を直す。男、2人を観察しながら。

女2 レポートを取りましょう。
女1 …夢を見たのよ。
女2 夢。また夢。
女1 そう、夢。いい夢。その夢の中で、私はリンゴを剥いていたの。私の手の平の上で、リンゴはくるくる回って、ナイフの表面を踊るように滑って、どんどん皮が剥けていく。終らないの。永遠に続くの。リンゴはこんなに小さいのに…いくら剥いても剥いても、まだ剥き終らない。だから、
女2 だから?
女1 だから夢から覚めても、まだ皮むきは終ってナイ。そー思ったの。
女2 …夢遊病なんだ、姉さんは。
女1 …ねえ。
女2 何?
女1 今日は、私が姉さんなのね?
女2 そーよ。だって私が先に話しかけたんだから。その日最初に「姉さん!」と話しかけられた者が姉さん。それがこの家のルール。でしょ?

女2、男をチラリと見た。男、僅かに頷く。

女1 そうね、そうだわ。そしてそのルールを作ったのは…私だったわね。
女2 私よ。
女1 だから、あなただったときの、私でしょ。…ああ、こんがらがる。
女2 どーでもいいよ。今日は、アナタが姉さん。私が妹。
女1 そうね。この家で、たった二人だけの姉妹だもの。どちらかが姉なら、もうどちらかは妹。それで充分。充分よね、私たち。
女2 それが今日からは…そーもいかなくなる、みたいよ。
女1 え?
女2 姉さん。姉さんがいま、夢中になって剥いてたのってね。…リンゴの皮じゃないのよ。
女1 ハ?リンゴの皮じゃない?
女2 だってこの家に、果物なんてナイ。あるワケがない。姉さん、アナタがソレを夢に見るのは、現実に手にできないものだから。
女1 (両手を見つめて)夢…。
女2 夢の中の持ち物は、この家には持ち込めない。持ち込んだときには、椅子を蹴る。蹴って、目覚める。…まだ、寝ぼけてる?
女1 じゃあ私が…私の手の中で、ナイフに頬あてて可愛く踊っていた、あの赤ら顔は、いったい、ナニ?
女2 姉さん。姉さんが剥いていたのはね。リンゴの皮じゃない。…ツラの皮よ。
女1 ツラの皮?誰の皮?
女2 私たちの…この家の、3人目の…新しい妹、或いは姉さん。
女1 えっ?

と、その瞬間、女3が現れる。顔は真っ赤な包帯でぐるぐる巻き。

女1 ひっ!
女2 目が覚めた?おはよう、お寝坊な姉さん。…今朝、届いたのよ。3人目。3人目の、人形。姉さん。アナタがすっかり剥いてしまったのは、このヒトの顔面、そのツラの皮。
女1 …困るわ。
女2 え?
女1 困るわ!3人目だなんて。…どちらかが姉なら、もうどちらかは妹。二人きりの姉妹だからこそ・一つ屋根のした、シンプルな不等式。ソレが崩れてしまう。朝起きる。起きて先に…「姉さん」、声をかけられた方が姉。声をかけた方が妹。それでよかった。私たちの関係。でも、今日からは…。
 …。

男、先ほど拾い上げた「皮」をぐるぐると女3の顔面に巻き付けた。

女1 たちまち真っ青、あなたは…誰?































夜。そこは部屋の外にある庭らしい。男が一人、本を開いている。その本のページに次々ショップカードを挟んでいく。

 …「バー・ぺパミント・ダークネス」…「ブティック・サンティアゴ・デ・コンポステーラ」…「ホテル・ラフレシア」…「パラライゾ・スポーツ」…「水のトラブル・茅ヶ崎配管」…「スイート・スイーツ・シンディ」…「とんかつ・大統領」。 

女3、現れる。部屋の中から、窓をあけ、庭にいる男に話しかけた。

女3 こんばんは。
 (振り向いて)…こんばんは。
女3 一度で返事をしたわ。椅子を蹴っていないのに。
 治外法権。ルールの運用外です。
女3 あなた、喋れたのね。
 喋れますよ。条件次第では。
女3 条件。どんな条件?
 2つあります。ひとつは時間。もうひとつは、場所。
女3 時間と、場所。
 時間は夜。その定義は…この家の住人が、私以外すべて寝静まって夢の中。
女3 じゃあ今は昼間ね。だってまだ、私が起きている。
 キミだけじゃない。誰よりも早く眠ろうとして、けれど眠れぬジレンマのベッドを軋ませる者が、もう一人。
女3 あのヒトね。名前を見張る、不眠症の虜。
 その通り。眠れば夜。目覚めれば朝。そのシンプルな不等式が崩れ…お陰でこの家に金輪際、夜がなくなってしまった。
女3 夜の消滅。2つの条件から、時間が消えた。…じゃあ、場所は?
 この家の、外。
女3 家の外?
 つまり私がいま、立っているこの地面。
女3 そこって、たぶん…庭よね?
 そう、庭ですよ。ワールズ・エンド・ガーデン。私にハメられたルールはね。家の「中」では口を利くことが出来ない。
女3 家の、中。
 裏を返せば家の「外」ならば、その適用外。
女3 庭は、家の外?
 私はそう定義した。定義して、運用した。事実こうして、キミと喋れている。
女3 …。

女3、部屋の中から、庭へ一歩、踏み出そうとするも瞬間、踏みとどまって。

女3 …私は、この家の外には出られない。出てはいけない。でも…きっと…。3人の姉妹のうち、2番目に目を覚ました者は、姉でもあり、妹でもあるように、眠ろうとして眠れぬ、不眠症のベッドの中は、昼でもあり、夜でもある。そして…

女3、くつを脱ぐと、庭へ一歩、ポンと踏み出した。

女3 そしてこの庭は、家の外でもあり、同時に家の中でもある。
 驚いた。このシステムをハックしたのはキミが初めてだ。…ようこそ、世界の果てへ。

女3、庭のさらに「外」に向かって、大きく手を拡げた。

女3 …はて、はて、はて…ハテ?
 ご感想は?
女3 (遠くを見て)…何もないのね。
 そう見える?
女3 ええ。マッシロだわ。影一つない、マッシロな水平線。マッシロな闇。…聞いてもいいのかしら?
 答えを期待しないのなら。
女3 世界には…この家以外、何もないの?
 そうだとして、何か困ることがありますか?
女3 困る事?…困ること。
 だってキミは…キミたちは、どうせこの家の外には出られない。出てはいけない。
女3 それがルール。そうよね?
 そう。ただの一歩さえ足を踏めない大地に、草木一本なかったところで、何を気に病むことがありますか?
女3 分からないわ。分からない。…でもいま、この庭で、両手を拡げたいっぱい、マッシロな世界を目の当たりにして…足が、ちくちくする。それに、ココロも。
 ココロ。…心、ときたか。
女3 おかしい?おかしいかな?
 失礼。ちっともおかしくはナイ。出てはいけない家の「外」へと足を踏み出したその瞬間、ココロの「中」へと意識が向く。興味深い。面白い。
女3 そーなんだ。面白いんだ。
 いまココロの「中」へと向けたその配慮を、けれど少しばかり、外側へも向けてみてはどうです?
女3 え?

女3、くるりと振り向いて、庭から部屋の中を覗くと、そこに女2が立っていた。

女2 …何をしているの?
女3 あっ、不眠症。
女2 きききき、キャーッ!何をしているの!家の外には出られない、出ちゃいけないって!あれほど念を押したのに!
女3 目が血走ってる。眼精疲労に、ビタミンB。
女2 今すぐ戻りなさい!家の中へ!早く!(女1の方を見て)…今なら、私さえ見なかったことにすれば…!
女3 あなたのお陰よ。
女2 えっ?
女3 あなたのお陰なの。名前を見張って、眠ろうとして、けれど眠れないあなたの不眠症が、この家から夜を奪った。
女2 …何を言っているの?
女3 この時間がいま、昼でもあり、同時に夜でもあるように。この庭は家の外でもあり、同時に家の中でもある。いえ、正確にいえば…その中間。「外」から「中」へのグラデーション。ハックしたのよ。ルールのキワッキワ。その椅子を、私は蹴った!

女3、窓をガラッ!とあけると、女2の手を取り、部屋の中から庭へ引っ張った。

女2 あっ!
女3 シェアするわ。この足とこのココロのちくちく。どう?世界の果て!

女2、先ほどの女3と同じく、庭のさらに「外」に向かって大きく手を拡げた。

女2 世界の果て…?…はて、はて、はて…ハテ?…あっ!そうだ、名前!私の…!

女2、本に挟まったショップカードを取ろうと、部屋の中へ戻ろうとする。女3、その手を掴んで。

女3 いいのよ!
女2 離して!離しなさい!…渡さない!私の名前!渡さないんだから!
女3 いいの!名前はいらないの!
女2 え?
女3 ここには…この庭には、名前も、それに姉・妹の関係もいらない。だって、その中間。言ったじゃない、グラデーションだって。
女2 中間…。グラデーション。
女3 私たちいま、何者でもない。ナンでもない。その血走った目が、やがて疲れて閉じられて、再び開けられる、その瞬間まで。
女2 …。
女3 …ね。愉しみましょう?世界の果て。ささやかな時間。
女2 なんか…なんかね。
女3 なんか?
女2 なんか、とってもワクワクしてきた。…ね、それで?
女3 ン?
女2 システムをハックしたこの庭で、いったい、何をするの?
女3 (永い間)…ハテ?
女2 ええ…。

と、今までこの成り行きを見守っていた男が立ち上がり、パチパチパチ、と手を叩いた。

 ブラボー。・素晴らしい。
女2 あっ、アナタ…。喋れたんだ。
 喋れますよ。私にとっては、この庭は家の「外」です。治外法権。ルールの適用外。
女2 あなたには、「外」。私たちには…
 「外」と「中」の間。その交点でいま、我々は交わった。見事なハックだ。
女2 アナタは…この庭の先住民族。ベテランね。
 まあ、そうです。
女3 じゃあ、教えてくださる?この庭で、やるべき事。部屋の中では出来ない、ステキなこと。
女2 ウンウン。
 …それを伝えるのは、私の役目じゃない。
女2・3 え?
 もっと適任がいますよ。私よりベテランの、この庭の、本当のアルジ。
女3 庭の、アルジ?

女2、部屋の中で眠る女1の方を振り返って。

女2 …アノ人ね。
女3 (ピンときて)あっ、夢遊病。
 そう。夢と現実、眠りながら起きる、起きて眠る。その中間を行き来する、彼女こそ、この庭の王。マージナルな歩法で闊歩する、真の所有者だ。
女2 出歩いてるのね?アノ人は…この庭を。
 ええ。…何度も出くわしましたよ。お喋りだってした。四方山噺です。ただ…彼女はそれを憶えてはいないでしょう。すべて、夢の中の出来事だ。
女2 レポートにはなかったわ。
 不思議なことにね。この庭を歩き回った次の日の朝には…彼女は決まって、キミより早く目覚めた。ただ一度の例外もなかった。それで。
女2 …そうだったんだ…。
女3 ン?ナニ?どゆこと?
女2 私たちはレポートを取っている。寝る前。寝たあと。どんな夢を見たか。どんな気分で目覚めたか。報告する。
女3 報告?誰に?
女2 さあ?兎に角、データをとって、報告するの。それがルール。…朝起きる。起きて先に…「姉さん」、声をかけられた方が姉。声をかけた方が妹。そして。
女3 そして?
女2 そして必ず、妹が、姉のレポートを取る。分かる?先に起きた方が、後に起きた方のレポートを取るの。それが毎日関係をリセットする、私たち姉妹のルーティーン。
女3 たった二人の姉妹の、ルーティーンね。…でも、じゃあ…明日からは?
女2 あなたがやって来たからね。ルールが変わるでしょうね。でも…どうでもいいわ。
女3 え?
女2 どうせ、一番最初に目を覚ますのは、私。選り取りみどりの、みどり。その名前をとって、そして…あなた達二人のレポートを取る。明日も、その次の明日も、その明日も…。この先、ずっと。ずーっと。
女3 ウーン。…ヨシ!明日のことは、明日考えましょう!今この瞬間は、明日でも今日でもナイ、姉でも妹でもない、ワールズ・エンド・ガーデン。有効活用しなきゃ。…ね、呼んでくるわ、庭のアルジを!それで、聞くの。この庭でやるべき事。部屋の中では出来ない、ステキなこと!
女2 あ、ちょっと…。

女3、靴をはくと、女1を呼びに部屋へ戻った。庭は男と女2、二人の空間となる。

女2 …はて、はて、はて…ハテ?

男、飲料をカップに注ぎ、それを女2に差し出した。

 どうです?一杯。
女2 …冗談ね。悪い冗談。
 いや、ひょっとして今なら…。そう思いませんか?
女2 バカにしないで。
 …。

男、カップの飲料を自分で口にした。しばしの沈黙。

女2 …どうして?
 え?
女2 どうして、アノ人を…夜中、庭を出歩くルール違反を、止めなかったの?
 止める?理由がありません。
女2 理由?理由ならある、だって、ルールが、
 ルール。ルールね。…そう、彼女は、彼女なりにルールをハックしていた。
女2 …。
 夢遊病。夢でもあり、同時に現実でもあり。そのどちらでもない境界の世界を歩くことで、彼女は。
女2 危険よ。
 問題無し。そう判断しました。
女2 あなたは、知らない。あの人がどんなに…どんなに…!
 知ってますよ、勿論。
女2 知ってはいる!でも分かってない!分かってないのよ!だって、現に私は…!

と、その瞬間、部屋の中から、ガシャン!と物音がして、そして女3のうめき声が聞こえる。

・女2 …!

二人、振り向き部屋の中を見ると、女1が女3の首を締め上げている。女3、目を見開いて、口から泡を吹く。

女3 …!

悲鳴のようなノイズが、空間を支配した。

DATA

2024年11月28(木)~12月2日(月)

Paperback Studio

作・演出
小野寺邦彦

出演
岩松毅 /金澤摩耶 /内柴楓 /小島あやめ /江花明里
スタッフ
制作:江花実里、永井友梨 / 協力:革命アイドル暴走ちゃん、放映新社/ 共催:Paperback Studio

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